杉原 桂の自分研究室

ユアクリニックお茶の水の院長、杉原桂のブログ。

(学会からの)インフルエンザにおける新生児への対応案

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入院している新生児も含めての話ですが

授乳中のお母さんたちにも役立つ内容です。

 

インフルエンザにおける新生児への対応案

2017 年9 月20 日改訂

日本小児科学会 日本新生児成育医学会 日本小児科学会は、2009 年に「新型インフルエンザ(パンデミック(H1N1)2009)に対す る出生後早期の新生児への対応案」を、2010 年に「2010/11 シーズンのインフルエンザに対 する出生後早期の新生児への対応案」を作成・公表した1), 2)。

 

その後の全国的な調査の結果、 我が国では新型インフルエンザを発症した母親に関連する新生児のインフルエンザの発症症 例の報告は少なく、母子感染の重症化例は見られなかった 3)。

 

以後 7 年経過したが、その後 も新生児領域でインフルエンザについて大きな問題は見られていない。 しかし、前回の対応案の提言から一定期間が過ぎたこと、オセルタミビルの新生児への使用が健康保険適用となったことなどの理由により、日本小児科学会・日本新生児成育医学会 は、現時点での周産期・新生児期におけるインフルエンザ対策を新たに提案することとした。

 

 もし、新たな新型インフルエンザの流行がみられた時は、病原性が把握されるまでは 2009 年の提言1)を参考にして対応する。

 

以下は本対応案の要点である。

1. 正期産児、それに準ずる早産児の出生直後の母子同室は妨げない。飛沫・接触感染に十 分注意を払う。

2. 平成29年3月24日に公知申請により承認されたオセルタミビルの治療投与に関しては、新生児・乳児も適応になったが、低出生体重児または生後2 週未満の新生児に対する使用経験が得られていないため、投与する場合は副作用の発現に十分注意する4)。

3. オセルタミビルの新生児への予防投与の有効性は明らかでないことから、原則行わない方針を継続する。

 

具体的な対応策

A. 症状を有さない新生児の管理について

a. 正期産児、正期産児に準ずる対応が可能な早産児

1. 母親が妊娠~分娩8 日以前までにインフルエンザを発症し治癒後に出生した場合

 通常の新生児管理を行う。

 

2. 母親が分娩前7 日から分娩までの間にインフルエンザを発症した場合

 分娩後より、母子は他の母子からの隔離を行う。この際、飛沫・接触感染予防策を講じた上で行う母子同室は妨げない。母子異室の場合は、新生児室で児に対して飛沫・接触感染予防策を講じ、他児と十分な距離をとる(1.5 m 以上)。ただし、各病院によって環 境や状況も異なることが想定されるので、感染対策チームと連携し、必要な対策を講じる。

 オセルタミビルの予防投与はせず、児の症状の観察とバイタルサインのモニタリングを 行い、発症時は後述するB.のように対応を行う。

 

3. 母親が分娩後~産院退院までにインフルエンザを発症した場合(カンガルーケア や直接授乳などすでに濃厚接触している場合)

 個室にて、直ちに飛沫・接触感染予防策を講じる。母子同室の継続は妨げない。その際、 児を保育器に収容したり、母と児の間で十分な距離を確保する等の予防策を講じ、母子 間の飛沫・接触感染に注意を払う。

 母親の発症状況や児への曝露の程度を総合的に判断して、厳重な症状(B.に示す)の観察とバイタルサインのモニタリングが必要と考えられた場合には、それが可能な施設に児を移送し、発症の有無を確認する。移送後の児は、原則保育器管理を行う。保育器がない場合や一般病棟の場合は他児と十分な距離をとる(1.5 m 以上)。

 オセルタミビルの予防投与は原則、推奨しない。 b. a.以外の児(NICU 入院中の早産児等)

 多くの児は出生後、NICU に入院していることから、保育器隔離をし、児の治療やケアを 行う。保育器がない場合は他児と十分な距離をとる(1.5 m 以上)。  オセルタミビルの予防投与はせず、児の症状の観察とバイタルサインのモニタリングを 行い、発症時は後述するB.のように対応を行う。

 母親は、インフルエンザ発症後7 日間は、原則、NICU へ入室しない。ただし、母親の状 態が回復して十分な飛沫・接触感染予防策を講じることができる場合には、NICU 等へ入 室できる場合もありえる。

 

B.インフルエンザを疑う症状を有する新生児の管理について5)

 

インフルエンザを疑う症状:発熱,咳嗽・鼻汁・鼻閉などの上気道症状,活気不良,哺乳不 良,多呼吸・酸素飽和度の低下などの呼吸障害,無呼吸発作,易刺激性

 

 直ちにインフルエンザの検査診断(簡易迅速診断キットによる抗原検査と可能ならば RT-PCR 検査の施行が望ましい)を行う。また,新生児の場合,インフルエンザ以外の疾 患で上記の症状を認める場合があるので,鑑別診断に努め適切な治療を行う必要がある。

 インフルエンザ検査が陽性の場合は治療を行う事も考慮する(D.抗インフルエンザ薬の 投与の項を参照)。

 早産児のインフルエンザの症状・予後は不明なことが多いので、上記の症状以外であっ ても、症状・所見・疫学状況から勘案してインフルエンザが疑われる場合は、ウイルス 検査を行うように努める。

 

C. 母乳の取り扱いおよび母子接触について

 

原則、母乳栄養を行う。 原則、飛沫・接触感染予防策の解除は,母親のインフルエンザ発症後7 日以降に行う。

 母親がインフルエンザを発症し重症でケアが不能な場合には、搾母乳を健康な第3 者に 与えてもらう。

 母親が児をケア可能な状況であれば、マスク着用・清潔ガウン着用としっかりした手洗 いを厳守すれば(飛沫・接触感染予防策)、直接母乳を与えても良い。

 母親が抗インフルエンザ薬の投与を受けている期間でも母乳を与えても良いが、搾母乳 とするか、直接母乳とするかは、飛沫感染の可能性を考慮し発症している母親の状態に より判断する。

 母親の症状が強く児をケアできない場合には、出生後、児を直ちに新生児室へ入室させ ることが望ましい。その際、他児と十分な距離をとる(1.5 m 以上)。

 哺乳瓶・乳首は通常どおりの洗浄・滅菌でよい。

 

D.抗インフルエンザ薬の投与  症状が出現した児に対してオセルタミビルの投与(治療投与量:3mg/kg を1 日2 回、5 日間内服)を考慮する4)。

 

特に、早産児は発症すると重症化する可能性があることを考慮する。ただし、平成29 年3 月24 日に公知申請により承認されたオセルタミビルの投与は生後2 週以降の新生児が対象である。体重2500g 未満の児または生後2 週未満の新 生児は使用経験が得られていないため、投与する場合は、下痢や嘔吐の消化器症状やそ のほかの副作用症状の発現に十分注意する4)。

 新生児には、原則、オセルタミビルの予防投与を推奨しない(海外でも予防投与につい ては 1 歳未満で検討されていない)。ただし、どうしても必要と認めた場合に限り、倫理委員会の承認やインフォームドコンセントを得た上で、新生児へのオセルタミビルの 予防投与(予防投与量:2mg/kg を1 日1 回、10 日間内服)を検討する4)。

 ペラミビルの投与は、低出生体重児や新生児への投与は安全性が確立していないため、 必要と認めた場合に限りインフォームドコンセントを得た上で、ペラミビル10mg/kg の 単回の投与(点滴静注)を検討する6)。

 

E.早産が予想される場合の取り扱いについて

 

妊娠中期以降のインフルエンザ発症により、分娩が進行し早産を起こすことがある 3)。切迫早産徴候のある妊婦のインフルエンザ発症例は、周産期管理の出来る施設へ搬送することも考慮する。このような体制を地域で構築しておく必要がある。妊娠中のインフルエンザによる早産の予防、出生後の新生児への感染予防のためにも、妊婦へのインフルエンザワクチ ンを勧める。

 

参考文献

1) 日本小児科学会:新型インフルエンザ(パンデミック(H1N1)2009)に対する出生 後早期の新生児への対応案、日児誌、113、1492-1494、2009

2) 日本小児科学会:2010/11 シーズンのインフルエンザに対する出生後早期の新生児 への対応案、日児誌、114、2016-2018、2010

3) 日本小児科学会新生児委員会. パンデミックインフルエンザ A (H1N1) 2009 の新生 児症例についての2009 年度全国調査、日児誌、114、1625-1628、2010

4) タミフルドライシロップ 3 %添付文書、 http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250021R1024_1_26/

5) 日本小児科学会新型インフルエンザ対策室.オセルタミビル治療を受けた生後3 か月 未満の乳児・新生児のパンデミックインフルエンザ A(H1N1)2009 症例の調査解析 〜臨床像とオセルタミビルの臨床効果・副作用〜、日児誌、114、1294-1297、2010

6) ラ ピ ア ク タ 点 滴 静 注 液 バ イ ア ル 150mg 添 付 文 書 、 http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/6250405A1032_1_06/